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東京地方裁判所 昭和59年(特わ)111号 判決

裁判所書記官

浅野正久

本店所在地

東京都目黒区柿の木坂一丁目二二番二〇号

株式会社旭ネームプレート製作所

(右代表者代表取締役松本こと朴春吉)

国籍

韓国

住居

東京都目黒区平町一丁目一八番八号

会社役員

松本こと

朴春吉

西暦一九一九年七月五日生

左両名に対する法人税法違反各被告事件につき、当裁判所は検察官三谷紘出席の上審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

一  被告人株式会社旭ネームプレート製作所を罰金三二〇〇万円に、

被告人朴春吉を懲役一年四月にそれぞれ処する。

二  被告人朴春吉に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社旭ネームプレート製作所(以下「被告会社」という。)は、東京都目黒区柿の木坂一丁目二二番二〇号に本店を置き、ネームプレートの製造販売等を目的とする資本金一〇〇〇万円の株式会社であり、被告人朴春吉(以下単に「被告人」という。)は被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空仕入を計上し、簿外預金を蓄積する等の方法により所得を秘匿した上、

第一  昭和五四年一二月一日から同五五年一一月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億八七四〇万八六四一円あった(別紙1の1修正損益計算書参照)にかかわらず、同五六年一月三一日、東京都目黒区中目黒五丁目二七番一六号所在の所轄目黒税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が六九八三万五八四五円でこれに対する法人税額が二六四五万七六〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書(昭和五九年押第三八四号の1)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額七三四七万一七〇〇円と右申告税額との差額四七〇一万四一〇〇円(別紙2の(1)税額計算書参照)を免れ

第二  昭和五五年一二月一日から同五六年一一月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億〇八二四万八六六一円あった(別紙1の2修正損益計算書参照)にかかわらず、同五七年一月三〇日前記目黒税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一七八四万五一六三円でこれに対する法人税額が五八二万四九〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書(前同押号の2)を提出してそのまま納期限を徒過し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額四三七六万四二〇〇円と右申告税額との差額三七九三万九三〇〇円(別紙2の(2)税額計算書参照)を免れ

第三  昭和五六年一二月一日から同五七年一一月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億六四一九万五二七七円あった(別紙1の3修正損益計算書参照)にかかわらず、同五八年一月三一日、前記目黒税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が八八九一万七七二五円でこれに対する法人税額が三五九三万六二〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書(前同押号の3)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額六七五四万九六〇〇円と右申告税額との差額三一六一万三四〇〇円(別紙2の(3)税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人の当公判廷における供述及び検察官に対する供述調書二通

一  登記官作成の登記簿謄本(閉鎖役員欄を含む)

一  板倉紀夫、鈴木智恵子、守屋喜久男の検察官に対する各供述調書

判示全事実、特に虚偽過少申告の事実及び判示各修正損益計算書中の公表金額欄の内容につき

一  押収してある法人税確定申告書三袋(昭和五九年押第三八四号の1ないし3)

判示全事実、特に判示修正損益計算書中の当期増減金額欄の内容につき

一  大蔵事務官作成の次の各調査書

1  期首棚卸高調査書

2  期末棚卸高調査書

3  期首材料棚卸高調査書

4  期末材料棚卸高調査書

5  主要材料費調査書

6  接待交際費調査書

7  雑費調査書

8  受取利息調査書

9  棚卸認容調査書

12  交際費等の損金不算入額調査書

11  事業税認定損調査書

(法令の適用)

一  被告会社の判示第一の所為は昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一五九条、一六四条一項に、判示第二、第三の各所為はいずれも右改正後の法人税法一五九条、一六四条一項にそれぞれ該当し、被告人の判示第一の所為は行為時において右改正前の法人税法一五九条に、裁判時において右改正後の法人税法一五九条に判示第二、第三の各所為は右改正後の法人税法一五九条に、それぞれ該当するところ、被告人の判示第一の罪は犯罪後に刑の変更があった場合であるから刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、被告人の判示各罪の所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上の被告会社、被告人の判示各罪はいずれもそれぞれ刑法四五条前段の併合罪であるから、被告会社については同法四八条二項により各罪の罰金の合算額の範囲内で、被告人については同法四七条本文、一〇条により刑及び犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で、主文第一項のとおりの各刑に処し、情状により被告人に対し刑法二五条一項を適用し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の事情)

本件は韓国全羅南道で生れ育ち、昭和一二年ころ来日し、金属ネームプレートを製造していた東洋ネームプレート株式会社に勤務して以来ネームプレート製造業をおぼえて独立し、更に昭和四五年には個人で営んでいたネームプレート製造の営業を法人化して従業員約二五名程度の被告会社を設立し、代表取締役社長としてその経営全般を統括してきた被告人が被告会社の業務に関して脱税を企て、当初は棚卸除外、売上繰延等を行っていたが更に、昭和五〇年ころから主として実在する三富金属株式会社と連絡をとり、あるいは架空の大森金属株式会社の名称を用いて架空仕入れを計上し、税理士事務所の事務員に架空計上額の小切手を渡し、謝礼を支払って被告人の手元に現金を戻し、これを簿外預金にしたり、金地金を購入したりして秘かに蓄積していたものであって、逋脱税額は、三事業年度で合計一億一六五六万六八〇〇円に達し、その逋脱税額の正当税額に対する割合すなわち逋脱税率は八七パーセント(昭和五六年一一月三〇日期事業年度、ただし同五五年一一月三〇日期では六四パーセント、同五七年一一月三〇日期では四七パーセント)に達するものであり、その動機は不況時に備えて裏資金を蓄えたり、子供の将来を考えて個人資産を蓄えておきたいというものであって特段に情状の上において酌量しなければならないものとはいえないのであるから、以上の諸点よりすれば被告人らの本件脱税の犯行は悪質といわざるをえないものである。

しかしながら、被告人は本件の査察を受けて後は反省し、調査、捜査に積極的に協力し、公判においても全面的に公訴事実を認めるに至っており、また、判示事業年度を含む四事業年度について正当税額の本税、延滞税を申告納付し、加算税についても納付受託の方法により分割して納付しつつあること、脱税に関与していた税理士事務所との契約を絶って新しく経理体制を整えていること等被告人らの量刑上有利に斟酌すべき事情も認められるところである。

そこで以上に列挙した事実のほか、被告人の家庭の状況等本件の審理に顕れた一切の事情をも総合考慮し、主文のとおり量刑した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 池田真一)

別紙1の1 修正損益計算書

株式会社旭ネームプレート製作所

自 昭和54年12月1日

至 昭和55年11月30日

〈省略〉

修正損益計算書

自 昭和54年12月1日

至 昭和55年11月30日

〈省略〉

別紙1の2 修正損益計算書

株式会社旭ネームプレート製作所

自 昭和55年12月1日

至 昭和56年11月30日

〈省略〉

修正損益計算書

自 昭和55年12月1日

至 昭和56年11月30日

〈省略〉

別紙1の3 修正損益計算書

株式会社旭ネームプレート製作所

自 昭和56年12月1日

至 昭和57年11月30日

〈省略〉

修正損益計算書

自 昭和56年12月1日

至 昭和57年11月30日

〈省略〉

別紙2 税額計算書

会社名 (株)旭ネームプレート製作所

(1) 自 昭和54年12月1日

至 昭和55年11月30日

〈省略〉

(2) 自 昭和55年12月1日

至 昭和56年11月30日

〈省略〉

(3) 自 昭和56年12月1日

至 昭和57年11月30日

〈省略〉

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